さとさまの日常

京都のROCK BAR DIRTオーナー、さとさまの日々の覚え書きを書き記す。

日本のオタク文化に音楽が食い込めない理由

2ch全盛の時代からそうなのだが、残念ながら音楽に関する分野はアニメやマンガという分野に比べてマニアの質が低いままである。

いくつか理由はあると思う。



まず、第1にアニメやマンガの世界では、深い知識や洞察が金になるが音楽の知識や洞察は金にならない。

ガンダムエヴァを題材にして、台詞の意味やアニメーションの技術を一般ユーザーに対して事細かに解説出来ればメシが食えたりする。

音楽は、少なくとも日本ではちょっと難しいのではないか。

例えば名盤と呼ばれる作品の作られた背景や作曲の意図、用いられた技術、演奏の要点等を一般的なユーザーに解説しても金は取れないと思われる。



第2に、日本の音楽はマンガやアニメのように世界標準で見て最先端ではないということ。

つまり、本質を求める人は本場の音楽に流れ、邦楽と洋楽という大きな棲み分けが出来る。

また、欧米に比べリスナーのガラパゴス化が進行し、”日本的な聴き方”が洋邦問わず確立しているということでもある。

例えば欧米に打って出れるクオリティのバンドやミュージシャンは日本にもいるが、もしそれを本気でやろうとすれば、日本のマーケットをある程度無視して世界標準に近づけないといけなくなるだろうということ。



第3に、アニメやマンガよりも音楽は手軽に作り手に回れること。

趣味としてマンガを描く人よりも、楽器をやる人の方がなぜか多い。

圧倒的に多いのではないだろうか。

もしくは、マンガを描くことを趣味とする人は、楽器の演奏を趣味とする人よりも慎重なのかもしれない。

誰しもが出来てしまうことが、わかったつもりになる人を大量生産していると思う。



以上の理由で、日本の音楽オタクが育たないことは説明できるのではないか。

わかりやすく、日本で売り上げ、人気、音楽の質、どれを取ってもトップクラスであるMr.Childrenを例に考えてみる。

まぁはっきり言って、現場でミスチルが叩かれることはまずない。

録音のクオリティや、そのヒットポテンシャルに対してしっかりと楽器の演奏を前に出した音作りはロックのカテゴライズに入っているし、なにより桜井さんの声質やリズムは誰にも真似が出来ない唯一無二の個性である。

しかし残念ながら、2chやニコ動でそういった所に言及している発言は殆ど見かけたことがない。

その売れ方を考えれば、ミスチルのファンに2chやニコ動にどっぷり浸かったヘヴィユーザーがいてもおかしくはないのだが。



これは第1の部分が原因であると考えられる。

一体現場で何が尊重されているのか、何が本当に価値があり、そうでないのか、深く知識や作品に対する洞察を語れる、もしくは語ることをビジネスとする人がいないことで、価値観がリスナー全体で共有されていないのである。

結果、ミスチルが好きな人は大量にいるが、何がどう凄いのかは余り語られることはないのである。

それどころか、やたらめったら叩かれているような印象を受ける。



まず多いのは、ミスチルは洋楽のパクりである、ということ。

これに関して言えば、第2の部分が当てはまる。

ことロックに関していえば、本場のクオリティには日本は追いついていない。

それは残念ながら真実だろうと思う。

しかし、先人が作り上げたシステムや手法を使うことはパクリではない。

ここの線引きが、日本の音楽リスナーはあやふやであり、よくわかっていない。

パクリというのは、既に完成している作品を丸々なぞらえて、自分達の作品であるかのようにアレンジを加えたものである。

少なくともミスチルに関していえば、まず楽曲があり、そのアレンジメントの段階で有名な手法を取り入れているだけに過ぎない。

ミスチルを洋楽のパクりだという人の言い分で言えば、オアシスなんかはビートルズピストルズのパクリでしかないことになるし、エアロスミスだってストーンズのパクリということになる。

だが、欧米ではそんなことは誰も気にしない。

個性やオリジナリティがどこに有るか等はもう既に確立された概念なのだと思う。



次に多いのが、桜井さんがライヴにおいて音のピッチが良くない=歌がヘタ、ということ。

これの原因は第3の部分が当てはまる。

なまじ音楽を齧ると、演奏の質を相対的なものに求めてしまうからだ。

それは音のピッチであり、リズムである。

はっきり言ってしまえば、そういったファクターは2の次だ。

少なくとも、ロックのコンサートにおいてそんなものは大した価値がない。

どれだけ自分の気持ちを高められるか、どれだけ聴衆の興奮を高められるか。

それは究極的にはギターを破壊したりするようなことがパフォーマンスとして高く評価されるに至る。

さらに言えば、こういうことを言う人は、実は殆どピッチやリズムというものを理解していない。

人間の耳や脳のシステムは基本的にみな同じであるが、聴こえているのと聴き取れているのは全く違う。

メトロノームが鳴り始めてから鳴り終わるまでには、無限の時間がある。

だがその違いを聞き分けるにはかなりのトレーニングが必要だ。

ピッチに関しても同じである。

音には無数の倍音が重なっているが、それを聴き取れている人は殆どいない。

不協和音が鳴りまくっているのに、平然と綺麗な音だと言う人もいる。

確かに桜井さんはライヴの時にピッチが甘いが、それはむしろノドや声が強くないことが原因だと思われる。

ライヴの音圧や音の大きさに対して声がそこまで強くない、ということだ。

じゃあ下げれば良いじゃん、という人もいるだろうが、ロックのライヴにおいては歌単体よりも全体の塊としての音が重要なのである。

歌を起点にサウンドを作るミュージシャンはいるが、ロックでそんなことはまずしない。

その辺りがミスチルがロックたる所以であろう。

なんちゃってミュージシャンはまるで経験則のように発言するが、残念ながらそれは無知を喧伝しているだけである。

しかしそうでない人にはその真偽がわからないので場は混乱し、結果深い洞察には至らない。



ざっくりと書かせてもらったが、結局音という感覚的なものの凄さが共有されていないことが日本の音楽がオタク文化に食い込めない理由だと思われる。

もう一つ言えば、日本人はビートは自然に理解出来るがグルーヴは自然には理解出来ないことも大きな障壁となっていると思われる。



世界標準が日本でもヒットポテンシャルを持つようになるためには、より一層深く音楽を楽しもうとする姿勢が必要だと思う。

マンガやアニメのオタクのように、骨の随まで楽しんでやれば良いのだ。

楽しめること=良さであるのだから。






ここからは宣伝。

おれがやってるバンド、PSYCHO kui METALLICSのライヴの予定です。

このブログは趣味に走りすぎていて何をやっている人かまったく解らない、と言われましたので。

4/22  心斎橋club jungle
5/9   京都GROWLY
6/9   京都MOJO
6/15 松山シーザー
7/9  新宿WILD SIDE TOKYO
7/10 新横浜BELL'S
7/11 西川口Hearts
7/12 高崎FLEEZ
7/13 宇都宮HELLO DOLLY



詳細はオフィシャルホームページまで!