さとさまの日常

京都のROCK BAR DIRTオーナー、さとさまの日々の覚え書きを書き記す。

風立ちぬ観て来ました

良い映画だな、というのがまず最初の感想です。

宮崎監督が描きたいシーンを繋げてあるのかな、という作りなのですが、そこにある作者の心情がダイレクトに伝わるような作品でした。

宮崎監督が思う美について描かれている作品、と言ってもいいのではないかと思います。

それは少年の夢であり、日本男児のあるべき姿であり、女性の強さであり、男のロマンであり、人の持つ愛情でありました。

絵のタッチは優しく、昭和のあの時代に忠実に描かれている訳でもありません。

ですがそこには間違いなく生きた日本人の美意識がありました。




戦闘機の開発者のお話ですが、実際の戦闘は描かれていません。

飛行機はほぼ仮想の形です。

が、話が進むにつれそのフォルムには現実感が出てきます。

具体的な零戦の開発時のエピソードや、全体のデザインは違えどリベットの加工や機体表面の美しさは零戦のそれでありました。

美しい飛行機を作りたい、と主人公は度々語っています。

不勉強にして原作を未読なので、実際に堀越さんがおっしゃった言葉なのかわからないのですが、この言葉に彼の生き様が凝縮されているのだと思います。

そして、最後の最後で描かれる実物と同じデザインの零戦が編隊を組むシーンの美しさに、宮崎監督が持つ堀越氏へ敬意や憧れが現れていました。

大勢の見ている中で涙を流すというのは、自分として許せないことなので我慢しましたが、この美しさを目の当たりにした時に危うく泣いてしまう所でした。




この作品には、要所要所で死を連想するシーンが入ります。

イメージや夢の中ですら飛行機は何度も壊れます。

破壊される時もあれば最高速度実験中に分解することもあります。

実際に人が死ぬ描写はないのですが、そこには死がちゃんとあるのです。

関東大震災の描写も、東日本大震災をテレビで何度も目にした身にはリアリティがあったわけではないですが、強い恐怖が感じられましたし、何度も出て来る夢のシーンは幻想的な風景で、非現実的に描かれているのですが、そこにも根源的な、同じような怖さがありました。

この言葉に表すことのできない原初的な恐怖が、この幻想的な描写を持つ作品にフィクションとしての軽さが生まれない原因だと思います。

そして、この時代を生きる人達が死というものを身近に感じて日々を生きていたのだということが感じられます。

死というものと寄り添っているのがわかるから、二人が選んだ生き方は美しく、菜穂子の選んだ死に方の尊さが伝わってくるのです。

そんじょそこらの、人が死ぬことだけに頼っているお涙頂戴の物語とは訳が違います。

何の為に生き、何をして死ぬのか。

カプローニは10年と言いました。

自分に置き換えて考えてみると、自分は何と悠長な人生を歩んできたのかと、悔しい想いでいっぱいです。




この物語の中で、主人公は零戦を開発する為に生きています。

その主人公と生きる為に菜穂子は生きている。

劇中では、主人公は美しい飛行機を作りたい、という願いしか口にしませんが、自分の仕事の責任が重大であることに自覚的だったように見受けられます。

でなければ当時不治の病だった結核を煩った妻に対して、あのような態度でいることは理解が出来ません。

二郎の言う美しい飛行機の、美しさとはなんなのか。

そこには個を越えた強い気持ちがあったと考えるべきかと思います。

その生き様が、戦争というモノの内包する問題を越えて、美しいものなのだと宮崎監督は描きたかったのではないでしょうか。

出撃していった人達がいることも、最後にほんの少しだけ描かれました。

それは菜穂子がその身を引いて、二郎が文字通り人生をかけて開発した零戦が飛ぶ最後のシーンであり、そして二人の人生の美しさを表現するためにも、何より美しくあらねばならないシーンでした。

それを描ききった宮崎監督は、本当に素晴らしい。




庵野さんの演技は、最初の一言こそ違和感もありましたが、すぐに堀越二郎と同化し、庵野さんだったからこそ、と言える程のものでした。

宮崎監督が言うように、大業な演技だったならこの作品の美しさは表現出来なかったと思います。

無理を言って始めた結婚式も、たまに菜穂子に甘える描写も、庵野さんだったからこそ無理なく受け入れられたのかな、と思います。




ストーリーとしては、劇中で説明があまり入らないこと、テンポよく話が進むことで、人によってはは入り難いかもしれません。

純粋なラブストーリーでもないし、夢と現実が入り乱れる所なんかはポニョと似ていて、それもまた人を選ぶかもしれません。

ですがこれはぜひ見て欲しいです。

そして、重いテーマですがちゃんと向き合った方が絶対楽しめると思います。





何の為に生きて何を成して死ぬか。

風が吹いてる間は生きねばならぬのです。

自分はまだ風立ちなうです。






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